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※唐突に現代パロだよ!!
雨はまだ降っていた。それでも司馬懿は傘を閉じた。
雨が止みそうなのかといえばそうでもなく、先ほどから重さを感じるほど肩にしみ込んだ雨水が今年の春作ったスーツを変色させてゆく。
傘を持つ手が赤くなり、悴むほど寒かった。それでも司馬懿は傘を閉じた。閉じた傘を放り投げて走ろうかと思った。一歩踏み出すと、靴の中に溜まった水ががぽ、とおもちゃのような音を立てる。
(諸葛亮…)
黒い長い髪がやはり雨に濡れたままで歩いている。自分より幾分か高く見えるその頭の中には誰の想像も及ばないこの世の全てが詰まっているのではないか、と信じていた時期もあった。今ならわかる、あの頭の中に入っているのは子供の妄想と、生きていれば誰でも学ぶことのできる知識だけだ。ただ、不器用なあいつは何もかも忘れられないから人一倍かしこく見えるだけだった。
葬式の日に見た、あの驚きを隠せない、といった顔を三年も続けているのだ。彼の中で、それはなかなか過去のことになってくれないようだった。
彼に過去も未来も今もない。現実も夢もない。本来なら順番に入れられるはずのそれを同じ時に一緒に入れるときっと彼が出来上がる。料理のときだってそうだ、順序と分量を間違えずに入れなければ、液状のグラタンなんかが出来たりするものだ。
なんなら、彼は料理の失敗作だ。誰も食べられない奇妙な食べ物だ。
彼自身それを自覚している。それでも自分ではそれをどうしようもできない。
(私だって、そんなことずっとしっていた)
例えば、殺し合うような対立の無いこの世界ならば、お前と近しいものになれるかもしれないと思っていたのに。
私は、誰よりも誰よりもお前のことを理解していて、共に手を取り合えぬのは立場のせいだと信じていたのに。
雨音が彼の足音を消した。
司馬懿は靴の中がいい加減気持ち悪かった。
遠ざかる背中は一度も振り返らずに歩いてゆく。
(手を伸ばせば触れられると思っていたし、求めれば答えてくれると思っていた。それはすべて私の妄想だった。)
希望という希望はもう何もない。
彼の中に守るものが特にないなら、彼の前に立ちはだかることも出来ない。彼の中で大きな存在になることもできない。ならば、いがみ合っていたあの頃の方がしあわせだったのではないだろうか?
傘を投げた。
植込みの木にぶつかり、骨が折れた。
それにも気づかぬようで背中は遠ざかる。水に溶けてなくなりそうなあの背中は、それでもきっと死ぬことが出来ないのだ。
「諸葛亮、傘が壊れた。」
「生憎ですが、私も傘を持っていません。」
「150円、出す。」
「は?」
「150円出すと言っているのだ。お前も半額出せ。」
雨に濡れても溶けそうで溶けない身体がいい加減かわいそうになってきた。
(お互い様だろう、消えてなくなりたいのは)
(それでも、消えてなくなれないのなら、ほんの少しでも、苦しい思いはしない方がいい。)
丁度コーヒーのシミをつけてしまったし、クリーニングに出すころ合いだったのかもしれない。濡れに濡れたスーツの袖を引いて司馬懿は思う。
濡れた手はつめたそうだったが、普段の彼の手ときっとどこも変わらないのだろうと思うと少し悲しくなった。
透明なビニール傘の下で、仰いだ空はよく見えなかった。
あとがき
なんとなく現代ものが書きたかったのと司馬諸司馬ー
殿が死んでなくなった後の孔明なら、と思ったけど孔明のなかで殿が死んだことがよくわかってないため、孔明的にはまだ殿が生きてるときみたいなノリで好きだから、どうしようもないっていうお話です。結局、なれ合いの関係に落ち着くのが司馬諸。それにしても最近雨が多いですね。
雨はまだ降っていた。それでも司馬懿は傘を閉じた。
雨が止みそうなのかといえばそうでもなく、先ほどから重さを感じるほど肩にしみ込んだ雨水が今年の春作ったスーツを変色させてゆく。
傘を持つ手が赤くなり、悴むほど寒かった。それでも司馬懿は傘を閉じた。閉じた傘を放り投げて走ろうかと思った。一歩踏み出すと、靴の中に溜まった水ががぽ、とおもちゃのような音を立てる。
(諸葛亮…)
黒い長い髪がやはり雨に濡れたままで歩いている。自分より幾分か高く見えるその頭の中には誰の想像も及ばないこの世の全てが詰まっているのではないか、と信じていた時期もあった。今ならわかる、あの頭の中に入っているのは子供の妄想と、生きていれば誰でも学ぶことのできる知識だけだ。ただ、不器用なあいつは何もかも忘れられないから人一倍かしこく見えるだけだった。
葬式の日に見た、あの驚きを隠せない、といった顔を三年も続けているのだ。彼の中で、それはなかなか過去のことになってくれないようだった。
彼に過去も未来も今もない。現実も夢もない。本来なら順番に入れられるはずのそれを同じ時に一緒に入れるときっと彼が出来上がる。料理のときだってそうだ、順序と分量を間違えずに入れなければ、液状のグラタンなんかが出来たりするものだ。
なんなら、彼は料理の失敗作だ。誰も食べられない奇妙な食べ物だ。
彼自身それを自覚している。それでも自分ではそれをどうしようもできない。
(私だって、そんなことずっとしっていた)
例えば、殺し合うような対立の無いこの世界ならば、お前と近しいものになれるかもしれないと思っていたのに。
私は、誰よりも誰よりもお前のことを理解していて、共に手を取り合えぬのは立場のせいだと信じていたのに。
雨音が彼の足音を消した。
司馬懿は靴の中がいい加減気持ち悪かった。
遠ざかる背中は一度も振り返らずに歩いてゆく。
(手を伸ばせば触れられると思っていたし、求めれば答えてくれると思っていた。それはすべて私の妄想だった。)
希望という希望はもう何もない。
彼の中に守るものが特にないなら、彼の前に立ちはだかることも出来ない。彼の中で大きな存在になることもできない。ならば、いがみ合っていたあの頃の方がしあわせだったのではないだろうか?
傘を投げた。
植込みの木にぶつかり、骨が折れた。
それにも気づかぬようで背中は遠ざかる。水に溶けてなくなりそうなあの背中は、それでもきっと死ぬことが出来ないのだ。
「諸葛亮、傘が壊れた。」
「生憎ですが、私も傘を持っていません。」
「150円、出す。」
「は?」
「150円出すと言っているのだ。お前も半額出せ。」
雨に濡れても溶けそうで溶けない身体がいい加減かわいそうになってきた。
(お互い様だろう、消えてなくなりたいのは)
(それでも、消えてなくなれないのなら、ほんの少しでも、苦しい思いはしない方がいい。)
丁度コーヒーのシミをつけてしまったし、クリーニングに出すころ合いだったのかもしれない。濡れに濡れたスーツの袖を引いて司馬懿は思う。
濡れた手はつめたそうだったが、普段の彼の手ときっとどこも変わらないのだろうと思うと少し悲しくなった。
透明なビニール傘の下で、仰いだ空はよく見えなかった。
あとがき
なんとなく現代ものが書きたかったのと司馬諸司馬ー
殿が死んでなくなった後の孔明なら、と思ったけど孔明のなかで殿が死んだことがよくわかってないため、孔明的にはまだ殿が生きてるときみたいなノリで好きだから、どうしようもないっていうお話です。結局、なれ合いの関係に落ち着くのが司馬諸。それにしても最近雨が多いですね。
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